法医学(続編)


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日常生活での判別「顔」


(C)CSI: Dark Motives

人はそれぞれ顔が異なっている事は当たり前である。 しかし、この当たり前ということが個人を識別するには重要である。 白骨死体が発見され、身元が分からない場合などには 復顔が試みられる。最近ではコンピューターによって自動で復顔が行われている。

人種、個人によって異なる「目」
日本人といえば黒・茶色の目を想像するが、 海外では青色など人種によって異なっている。 これはメラニンの影響で、海外では指名手配などの際に利用されている。 また、個人識別などに虹彩を読み取る機械なども開発されており、セキュリティに利用されている。

意外な落とし穴「耳」
耳は音を集めるのに役立っているが、 最近になって耳が事件解決に役立つのではないかと言われているように なってきた。例えば、海外では家の中の音を聞くために ガラスに耳を付けた時の跡から犯人逮捕の参考にされた事件もある。 耳の中の耳垢も遺伝の影響を強く受ける一つなので、様々な人種が暮らす 海外などでは参考になる可能性がある。

意外と印象に残りにくい「鼻」
鼻は顔の中央部に存在しており、目撃情報から 犯人を探し出す際には極めて重要であると想像されるが、 実際には印象に残りにくく、決め手にはなりにくいと言われている。

遺伝の影響を受けている「唇」
唇は人種によって大きさや形が異なっており、 遺伝の影響を強く受ける一つで、生涯変わらないと 言われており、犯罪捜査に使えるのではないかと注目を浴びてきている。

小さいながらその存在は驚くべき「歯」
最初に述べたように法医学の中には法歯学という学問が含まれている。 なぜ、このようにサイズとしては小さい歯が学問として確立されているのか 疑問に思われた方もいらっしゃるだろう。 これには医学部、歯学部が別に併設されているという 単純な理由だけではなく、大きな理由がある。 成人では歯は上下左右合わせて28本と、人によって 生えてくる時期・有無が異なる4本、つまり親知らずと呼ばれてる歯がある。 つまり、全て生えてきた場合には32本の歯が存在していることになる。 仮に、治療の有無などそれぞれ3つの分け方で分けると3の32乗になり、 驚くべき分類の数になる。そのため、個人識別で欠かすことは出来ない。 骨は硬くて大人になるとほとんど変化しないと思われているが、 実際にはホルモンの影響を受けて、カルシウム濃度を維持するために 常に作り変えられている。 また、歯が注目される理由は骨に似ているが、成分を 測定してみると実はあまり似ていないという奇妙な点が関係している。 骨の半分は無機質ではなく、有機質・水で構成されている。 つまり、骨といっても長い間地中に埋まっていると比較的簡単に分解 されてしまうということを意味している。 それに対して歯の表面のエナメル質と呼ばれている部分は 97パーセントが無機質で有機質・水は3パーセントしか含まれていない。 そのため、長い年月が経ても形が維持されたまま残っており、 実際に、人類の祖先の化石を発掘する際にも歯しか 残っていないことが多々あるという。 では、実際にもし歯が一本落ちていた場合にはどの程度のことが分かるのだろうか。 まず、歯が一本落ちていた場合32本のどこの歯なのかということはある程度 容易に鑑別することが出来る。 また、上顎の中切歯(前歯の2本。理科などでは門歯と書かれている場合もある)の 歯の形は逆さにすると顔の形を現している話もあり、 科学的に人種、性別、年齢、生活、血液型などを判別することも出来るのだ。

血液と大きく関係している「唾液」
唾液は三大唾液腺と小唾液腺から分泌される。 事件現場の血液が証拠として残る意味は 容易に想像できるが、それに比べると 唾液はあまり意識されていない。しかしながら、唾液は 血液から生成されているのでタバコや被害者などから唾液を採取することによって 血液型などを判断する手がかりとなる。 しかし、血液型判定は現在のところABO式しか 確立されておらず、Rh型、MN型、Q型などについては現在研究が行われている。 また、唾液に含まれる細胞には多量のDNAが含まれているので犯人逮捕の有力な証拠となる。

体の構造は機能にも影響している「声」
声は個人によって異なっている。 そのため、声から性別だけでなく、"なまり"や、話し方などから 住んでいた地域、生活、職種、身長など様々な情報が分かる。

人間の特徴「利き腕」「指紋」


(C)The Human Body in Health and Illness

日々の生活の中では左利きよりも右利きの方が多い。 これは人体の構造・機能と関係しているが、それだけでなく、 教育も大きく影響している。 一説によると産まれたときには左利きより右利きの方が多く、 ほとんどはどちらでも無いと判断されているという。 しかし、社会に出るとほとんどは右利きである。 それは、左利きだと社会的な教育の中で右利きに矯正される人が多い ことも影響している。 本来、この利き腕というのは脳の左右のどちらが優位であるかに よって異なっているのである。 そのため、紐の結び方や襲った時の凶器の角度・持ち方などから ある程度、利き腕がどちらであるか判断することが出来る。 また、左利きは少ないので、左利きと判断された場合には 容疑者を絞るときなどには 参考になることもあるという。 また、指紋は遺伝によって一生変化することが無いので 以前から個人を識別するのに用いられてきた。 指紋は一卵性双生児でも異なると言われている。

性犯罪の重要な証拠「精液」
性犯罪では女性から採取された精子が 大きな手がかりとなり、事件が解決される場合がある。 精子から血液型だけでなく、時刻なども導き出すことが出来る。

手と同様に犯人を浮き彫りにする「足」
指紋は犯人を探し出す際に重要な手がかりであるが、 同様に足も様々な手がかりを提供している。 足跡が残っていれば歩幅や、足のサイズなども判断することが 出来る。また、裸足の跡が残っていた場合には指紋と同様に 足紋から犯人が導き出される。

最終章.科学捜査と犯罪


(C)CSI 〜科学捜査班〜

今回は法医学、法歯学と人体のミステリーを関連付けて 紹介してきたがいかがだっただろうか。 今回紹介してきたものは一般の方が分かりやすいような 内容、ボリュームで扱ってきた。 最初に述べたように法医学は幅広い 学問で、以上の内容は極めて小さなその氷山の一角に過ぎない。 高度化する犯罪の中で日々、世界中で研究が 行われ生かされている。 以上の内容だけを例にとっても科学的な奥深さを垣間見れた かも知れない。現代は顕微鏡でしか確認することが 出来ない証拠一つからでも犯人が割り出されている。 人間には自分の意思を貫きたいという欲求が 少なからず存在する。 自分に不利な情報はなるべく見ないようにしてしまう危険性も否定できない。 それは、原告、被告だけではなく、 もしかしたら裁く人々かもしれない…、 「証拠だけが唯一、嘘をつかない」のだ。
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