骨が語る真実 法医学


骨が語る真実。法医人類学者の挑戦!!
世界のミステリーを扱う「セントラルリサーチセンター」と作成協力

序章.骨と向き合う仕事

近年テレビなどで注目を浴びる法医学。 法医学は様々な学問と密接な関係があり、 その中でも特にテレビなどで描かれる一つとして 法医人類学(法医骨学)がある。 近年では凶悪犯罪が目立ち、森の中などで 白骨化した死体が発見されることも珍しくない。 今回は、そんな骨から様々な真実を導き出す法医人類学の 世界を少し垣間見てみよう。

一章.骨と人類学

骨は人体を支えたり、脳を保護したりする働きがある他、 血中のカルシウム濃度を維持したり血球産生など 生体を維持するために欠かすことが出来ない。 人類学には幅広い研究内容が含まれるが、 重要な研究の一つとして古代人の骨の研究が含まれている。 人類学者達は出土した骨を研究し、 人類の起源や生活などに迫っている。 犯罪現場で白骨化した死体が発見された場合には 時に人類学者の助言が求められることがある(アメリカ)

二章.骨と情報

温度・湿度・場所などの環境状態に大きく影響されるが、 犯罪現場などに残された死体が白骨化するには夏を越える必要がある。 また、死体の変化の目安として 地上を1とした場合、海中は2、土中は8倍の時間が必要であるという カスパーの法則は法医学上、よく知られている。 骨が発見された場合、保存状態などによっても異なるが、 人種・性別・年齢・血液型・DNA判定、復顔(粘土やCGが利用される) などが可能であり、 骨に残された痕跡から内因(疾病の一部)、 外因(鈍器による骨折など)による死因が特定されることもある。 また、骨は時間の経過と共に骨に含まれる有機質が減少するので 紫外線放射を利用して経過時間(通常、10年以上で反応が無くなる) や、火葬の有無なども検討される。

三章.骨は語る。脅威の法医人類学。

それでは、実際の法医人類学を紹介しよう。 分かりやすく基本的な部分を紹介するが、 それでも幾つかの普段聞きなれない用語が出てくると思うが、 これは法医学が解剖学(特に骨学)の学問と密接な関係を持っているためで、 「じっくり読む」「全体像だけを掴む」等、読者により様々な読み方をして欲しい。 人骨が白骨された場合、法医人類学者が特に注目するのは 大腿骨(下肢で一番大きい骨)、頭蓋骨、骨盤であり、 逆にこれらの骨以外は男女などで顕著な差は見られない。 また、これらの骨からは性別・年齢判断が主な鑑別となる。 それでは、これらの基本的な内容を実際に一つずつ紹介してゆくことにしよう。

四章.骨はいつも全て発見されるとは限らない

犯罪現場などに残された骨はいつも全て発見されるとは限らない。 川で流されていたり、動物が移動させてしまうこともある。 男女の骨格を比較すると男性と女性は統計上、一応分けることが出来るが、 それらのデータが逆になっている場合などもよくみられる。 特に近年は男性より女性の方が身長が高かったり、逆に男性の方が華奢 だったりする。もし、大腿骨だけが発見された場合には 統計上、身長を推測することが出来、また、状態によってはDNA鑑定も行うことが出来る。 実際に、以下に日本人の計算式の例を紹介しておく。

身長=2.5×(大腿骨の長さ)+53.56(単位はcm)


五章.貴重な情報を提供する頭蓋骨



頭蓋骨は法医学上、極めて貴重な情報を与えてくれる。 まずは、全体像の観察を行うと、一般的に男性の方が大きくがっしりとした印象を受ける。 また、上・側・後方からの観察では「縫合(実際にはそれぞれ名前が付けられている)」 という構造が見られ、 年と共に癒合する(出産時には開いており、泉門(部位によって名前が異なる)と呼ばれている) ので、年齢推定の参考になる。 それでは、顔の上部を見てみよう、すると前頭骨は男性では後方にやや傾斜 しており、眼が収まっているくぼみ(眼窩)の上の隆起は男性の方が発達が良いことに気づくだろう。 また、眼窩の形態は人種により白人はなす状、黒人は楕円、黄色人種 という特徴がある。顎を観察すると、年齢により様々な形態 がみられ(骨の吸収度、下顎角の角度(20代位で120度程度)、 歯の生え方や状態なども様々な情報を提供している(後ほど紹介)、 男性は下顎の前部(オトガイ部)が鈍角であり、女性はやや鋭角である。 また、下顎骨の神経や血管が出る穴(オトガイ孔)は年と共に上斜方から後斜方に下がる傾向にある。 眼の斜め後方の頬骨(触って確認出来る)は男性の方が厚く、 乳様突起という構造部は男性は親指、女性では小指の末節位の大きさである。 頭蓋骨の一番後ろの外後頭隆起は男性の方が一般的に隆起が強くみられるなどの特徴がみられる。

六章.法医歯科学、顎骨と歯の不思議

頭蓋骨に含まれる顎骨と歯は「法歯学」 で紹介したように様々な貴重な情報を与えてくれる。 歯列弓を観察すると白人はV字、黒人はコの字、黄色人種はUの字の形をしており、 シャベル型切歯(白人は無く、黄色人種は多い)、 カラベリー結節(黄色人種が30%前後とやや少ない)、 口蓋の深さ(黄色人種が比較的浅い)などの特徴も見られる。 頭蓋骨の底部から上顎骨・口蓋骨を観察すると頭蓋骨の縫合と同じように 縫合が見られ、切歯縫合は外側から閉鎖が始まり30歳前後で完成し、 正中口蓋縫合は40〜60過ぎまで残ると考えられている。 また、歯の観察では萌出状態などによって年齢、性別、経済状態 などを推測することが出来、身元確認など欠かすことが出来ない。 一般的に歯の観察では人種により特徴が見られ、 男性の犬歯は女性よりも大きいと考えられているが、近年は異なるケースも多い。 歯の萌出状態は年齢推定に極めて有用(各歯によってそれぞれ萌出時期がある)で、 乳歯では、2歳半で終了し、5〜6歳で下顎第一大臼歯が萌出し、 12〜15歳で生え揃うが、第三大臼歯(智歯、親知らず)は 個体差が非常に大きくしばしば障害になる。 また、歯の咬耗・磨耗状態では、 30代では点・線状に象牙質が観察され、 40代では象牙質の広い範囲にみられるとされているが、習慣などによって個体差がみられる。

七章.男性と女性の違い。骨盤。


今まで紹介してきたように 法医人類学では頭蓋骨が鑑定上、重要である。 そして、これと同様に法医学者が大きな鑑別ポイントとしているのがこの骨盤だ。 女性は出産を行うことがあるために 骨盤は男性と女性とでは異なった特徴がみられる。 男性の大坐骨切痕は深く鋭く、仙骨体は狭く長い。また、 骨盤上口は男性はハート型であるが、女性は円・楕円型であり、 恥骨下角は男性はV字であるが、女性はU字に近い形を示す。 また、骨盤の年齢推定は恥骨結合が用いられ、17歳〜35歳位までの非常に よい指標となっている。

最終章.数多き謎を秘める骨

法医人類学の世界を紹介してきたがいかがだっただろうか。 このように、法医人類学は世界中の研究で集められた統計上の資料と、 それを鑑別する経験が極めて重要である。 今回、挙げてきたのはその中でも特に分かりやすく基本的なものであり、 実際はさらに骨には様々な情報が含まれている。 まさに骨は人体のミステリーそのものなのだ…
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