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法歯学

担当:長官
小さいながら"それ"は実に多くを物語る不思議な器官!!
法医学が分かる「法医学の窓口」もご覧下さい。

序章.法歯学
(法医歯科学、歯科法医学)


法医学、法医歯科学(以下法歯学)はテレビなどで注目を浴びている。 今回は法医学の中の法歯学にスポットを当てる。 歯は小さいながら実に多くを物語る不思議な器官である。

第一章.法医学の基礎知識

法歯学は法医学と密接に関連している。 法医学全体のミステリーを ご覧になりたい場合には「法医学と人体のミステリー」 で紹介しているのでまずはそちらをご覧ください。

第二章.法歯学と個人識別


(C)CSI〜科学捜査班〜

個人を特定する個人識別は生活と密着している。 例えば向こうから歩いてきている人物を友人と判断するのも一種の個人識別と 言えるだろう。 個人識別にはこのような生体と死体の場合がある。 生体の場合、記憶喪失者や捨て子などの判別などが挙げられる。 また、死体の場合には災害や、事件などが考えられる。 最近は凶悪犯罪が増加し、 ニュースでも山奥で白骨死体発見という報道がされるようになった。 このような場合には骨から様々な情報が得られる。 例えば性別や年齢などもその一つである。 しかし、長い年数が経過していた場合などでは 骨すらも分解さてしまっている場合も少なくない。 骨は硬いイメージがあるが、約半分が有機質で構成されているのだ。 しかしながら歯だけが残っている場合が多々ある。 骨と歯は似ていると思われているが、歯のエナメル質という部分には有機質は1パーセント程度しか含まれていない。 そのため、個人を特定するにはこの歯は重要である。 果たしてこの小さな器官は一体どのような情報を語りかけているのだろうか…

第三章.歯は人生と共にある

様々な法医学の知識と共に法歯学の情報は貴重である。 上記で述べたように歯は残りやすいので特に身元確認の 際には重要である。 歯にはその人の人生が刻まれている。 ここでは、なぜこの器官が個人を特定するのに役に立つのか紹介する。

歯は残る
先ほどから述べているように歯は長い間(数千年)残っている場合が多い。

検査が比較的容易
他の検査に比べて歯の所見は比較的容易に行うことが出来る。

家族、カルテも語る

ホームページ作成中の長官デスク

日本では国民の9割以上が虫歯を経験しており、 歯科受診率は世界一となっている。 歯の記録は家族の記憶や、歯科診療所でカルテとして残っている場合が多い。 特にカルテは歯科医師法によって5年間の保存が 義務付けられているので貴重な資料となる。

歯は様々なパターンがある
成人では歯は28本あり、親知らずを含めると32本存在する。 仮にこれらの歯を「健全歯」「虫歯」「処置歯」 と3種類に分類したと仮定して、 親知らずを含めずに28本の歯を3種類に分類すると 3の28乗となり、理論上は約23兆の分類が出来る こととになり、現在の世界の人口60億人を大きく上回る。 実際には歯が全て抜けている場合などもあるが、 親知らずを含めたり、治療方法や材料などを考えると 有用であることがお分かりいただけるだろう。 よくテレビなどで行われている指紋法は10の10乗で100億の分類である。

歯は年齢、性別、体の大きさ、ライフスタイルなども語る
歯は年齢や性別、体の大きさ、ライフスタイルなども語る。 また、これらは白骨死体のような直接的な識別だけではなく、 犯人が残した歯の痕などから間接的な識別も行われる。

第四章.個人を識別する様々な方法

法医学・法歯学では、個人を識別するには様々な方法がある。 ここではその中でもよくドラマなどでも目にするであろう 、歯、指紋、血液・DNAの検査の特徴を比較して紹介しよう。

検査項目多様性生前死後
指紋×
血液・DNA

第五章.小さいながら多くを物語る「歯」


(C)大橋正敬ほか編:最新歯科理工学,169,学建書院,1992

このようにたった一本の歯は 法医(歯)学者に多くを語りかける。 面白い話では 上顎の真ん中の2本の歯 (専門的には「上顎中切歯」、理科などでは門歯と書かれる場合もある) を逆にするとその人の顔の輪郭に似るといわれており(上図)、 厳密に区別は出来ないが、男・女性的な歯の形もある。 また、人種によっても異なり、 歯根部の長さや、 歯の大きさや、特徴などが民族などによって異なっている。 また、歯から年齢を割り出すことが出来る。 スウェーデンの組織学者のゲスタ・グスタフソン教授 が提唱した六点法は判定誤差がプラスマイナス3.6歳と言われており、 世界的にも認められている。 また、近年ラセミ化法という歯に含まれるアミノ酸の成分を利用して年齢を推定する科学的な分析法も 開発された。これはプラスマイナス3歳以下の誤差である。 性別は歯髄のDNAから判定することが可能である。 また、体の大きさや、ライフスタイルなども推測することが出来るのだ。

第六章.歯と顎骨、頭蓋骨

法歯学分野は歯だけではなく、 それを支える顎骨、そして頭蓋骨などの様々な特徴から年齢や性別 が鑑別が行われる。頭蓋骨・骨学については「骨が語る真実」 で述べたが、最後に顎骨について少し触れる。 顎骨は歯を支えるために重要な組織で、 歯槽骨は歯周炎によって吸収され、歯を喪失する原因になる。 また、男女によっても特徴があり、それは先ほどの「骨が語る真実」 で紹介した。近年、古代人と比較して顎が小さくなったといわれる とよく聞くことがあるが、実際には顎のサイズと歯列幅は関係ない こという研究もあり、CTなどを用いた計測によると 歯が植わっている部分の骨(骨体)のサイズは縄文人も現代人も ほとんど違いがみられず、下顎枝の部分だけが異なっているという。 また、下顎角は縄文人のが鋭角で、前面からみた骨体の部分は 現代人の方が長いので縄文人に比べて現代人は細長の顔になっている。 このように考えると、何故歯列弓の長さが縄文人のほうが大きい のかという疑問がわくが、これも先ほどの研究によって分かってきている。 縄文人の歯の傾斜は骨体に対して直角に近く、現代人は歯が内側 に寄っているためであるということが考えられている。 実際に、歯の矯正治療では歯を起こして歯列弓を大きくし、 出来上がったスペースに歯を誘導することがある。 なお、歯の矯正は成長期に行われるのが好ましく、 上顎では正中口蓋縫合、下顎では歯の傾斜などを利用して治療されている。 また、成長期に食物をしっかりと少し硬いもの食べて正しい 咀嚼運動を行うと歯は垂直になり、咬合が改善される。 この場合には顎がしっかりとしてくるので女の子は矯正で治したいと いう意見も聞かれ、実際にはQOL(生活の質)を考慮してよく検討する必要がある。 このように法歯学は完全に独立した学問ではなく、他の様々な学問によって支えられている。

最終章.歯という器官

以上、紹介してきたがいかがだっただろうか。 日常生活では食事、歯磨き、美容など身近にある歯。 もし、その存在意義、不思議を改めて 感じていただけたなら幸いである。
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