検索エンジンで来られた方は「トップページ」から他の不思議もご覧下さい(CRC JAPAN) 微生物(続編) このページは続きの文章です。検索で来られた方は「こちら」からご覧下さい。 第5章.抗生物質に対する細菌の抵抗 抗生物質が発見され、人間は完全に勝利を確信した。 しかし、35億年の間、形をほとんど変化させずに地球上に 適応出来る"彼ら"は我々が思っていた以上に"タフ"だった。 "彼ら"は抗生物質が働きかける部分の構造を変化させ、 一部の抗生物質は効かなくなった。 特に社会的に問題になっているのは MRSAで、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」という 頭文字の略である。 この黄色ブドウ球菌(Stapylococcus aureus)は常に体にいるが、 体が弱った時には 危害を与える恐れがある。 尚、細菌の名称はラテン語で「リンネが提案した二名法」に基づいている。 その後、この菌に対してバンコマイシンという抗生物質が 使われたが、最近ではこのバンコマイシン耐性のVRSAが出現し、問題となっている。 例えば壊死した人体の組織に細菌が感染するのを防ぐために抗生物質が 用いられるが、耐性菌の出現のために抗生物質が効かない場合などは 海外では無菌状態のうじ虫も利用されており、 イギリスでは600を超える医療機関で用いられている。 うじ虫はハエの幼虫で、死体に群がっている イメージがほとんどだと思うが、何世紀も前からうじ虫が壊死した組織を 食べることは知られていた。 ナポレオンの主治医だったドミニク・ラリーは戦争で受けた傷に対して うじ虫が感染の拡大を妨げ、、治療を促進したと報告している。 また、こちらは現在科学的に行われないが、 歯の歯髄を取り除くのにウジを利用したという 論文がジョージ・O・ドレーアによって 1933年「デンタル・サーヴェイ」誌に 発表されている。 うじ虫が壊死した組織を食べる以外に、 細菌に抑制的に働くのは 「幼虫の分泌物による抗菌物質、アンモニアによる効果」などが考えられている。 外す際には無菌食塩水が用いられる。 第6章.私達の生活を支える微生物と常在菌 細菌、真菌などの微生物は私達の生活には欠かすことが出来ない。 真菌がいなければパンも作れず、様々な食品も作ることが出来ない。 また、常在菌の存在も重要だ。 常在菌というのは普段、我々と共にいる細菌である。 しかし、先ほど宿主の免疫力などが 低下すると病気を引き起こす場合もあると紹介した。 このように紹介すると常在菌が私達の敵だと感じられたかもしれない。 しかしながら"彼ら"がいなければ、 肌が"かさかさ"になり、ある特定の食べ物などが消化できなくなる。 また、人工的にビタミンなどの栄養を錠剤などで摂取しなければならなくなる。 腸内などにいる細菌は食べ物を分解し、その結果、 私達に有用なビタミンなどを提供しているのだ。 "彼ら"は特殊な酵素によりこのように分解することが出来る。 例えば、家を食べることで知られているシロアリは 腸内に木を分解できる細菌がいるために木を食べることが出来るのである。 常在菌の役割はこれだけではない。 "彼ら"は私達を強力な細菌などからも守っている。 強力な細菌などの病原体は"彼ら"が 私達に生息しているためになかなか住み着くことが出来ないのだ。 私達の体表にいる細菌だけでも常在菌は100兆存在している。 つまり、体を構成している60兆個の細胞よりも多い。 そのため、健康に気を配るには"彼ら" 常在菌抜きで考えることは出来ない。 "彼ら"とうまく共存出来た時に初めて 肌は"すべすべ"になり、腸の調子も良くなる。 第7章.選択的なターゲット。常在菌を回避せよ!! 今まで、抗生物質と常在菌などを紹介してきたが、 風邪などの際にむやみに抗生物質を飲むことが良くない理由が 新たに一つ出てくる。 先ほど紹介したとおり、ほとんどの風邪はウイルスに よるもので、二次感染を防ぐ以外の目的として抗生物質による効果はそれほど 望めない。また、抗生物質は病原体だけでなく、私達と共存している 常在菌にも効いてしまう。"彼ら"が死滅すると 仮に生態系で例えるならば、そこの地位(ニッチ)は"がら空き"である。 その結果、他の細菌などが棲みつくことになる。 このような細菌は私達に、たいていは悪い影響を及ぼす。 例えば、真菌の一種であるカンジダアルビカンス(Candida albicans) などはしばしば常在菌の代わりに生息し、カンジダ症を引き起こす。 このように抗生物質はターゲットを絞っているとはいえ、 周りの無害な細菌までも影響を与えてしまうのだ。 抗生物質を気軽に使わない理由として社会的な大きな目で見るならば 耐性菌の出現を抑える目的もある。 次章では微生物の中でも強力な病原体を一部紹介する。 第8章.結核、コレラ、ペスト…、病原性微生物 私達の歴史は常に病原性微生物との戦いでもあった。 高度な古代文明が存在しても、疫病などによって 幕を閉じることも珍しくなかった。 ここでは、ほんの少し紹介する。 結核菌(Mycobacterium tuberculosis) この菌は結核を引き起こす菌としてよく知られている。 この菌の恐ろしいところは体の外敵に対する防衛機構に"やられたふり"をして 生きて増殖していることである。ツベルクリン反応によって感染の有無が 確認でき、BCGのワクチンが行われている。 コレラ菌(Vibrio cholerae) この菌は経口感染し、激しい下痢のため、 極端な脱水症状を引き起こす。発展途上国では特に深刻な問題になっている。 公衆衛生の重要な鍵は衛生的な水の確保である。 ペスト菌(Yersinia pestis) この菌はノミを介して保菌ネズミを通してヒトへと感染する。 肺ペストになるとヒトからヒトへも伝播する。 黒死病として知られており、 当時、ヨーロッパの人口の半分が亡くなった。 このように地球には他にも様々な病原菌が生息している。 細菌、真菌、ウイルスでもない クラミジア、リケッチア、マイコプラズマといった 分類で分けられている微生物もいる。 最終章.潜在的な脅威、バイオハザード バイオハザードは 施設から人為的ミス等によって実験外へと出てしまった病原体 などの脅威を意味している。 ゲーム「バイオハザード」では、 アンブレラ社によって作られたウイルスが 人々を次々にゾンビに変え、襲ってゆく。 現実的に、 このような出来事が起こる可能性は 長い目から見てもゼロに近いと思うが、 「もし、人々を脅かした危険な微生物がミス、 あるいはテロなどによって利用されたら…」ということは 誰もが危惧することだろう。 細菌を扱う施設は バイオセーフティーレベルによって4段階に分けられており、 レベル4では極めて危険な細菌を扱っている。 日本では国立感染症研究所がこのレベル4の施設を備えているが、 地域住民などの反対によって"レベル3として機能"している。 そのため、日本で発見されたレベル4の細菌は、 レベル4の施設であるアメリカ疾病対策センター(CDC) に送られている。 これらの危険な微生物を保管するかどうかについては 議論が持ち上がっている。 恐らく、残念ではあるが緊迫する世界情勢の中で、テロなどによって 研究所から盗み出され、 これらの強力な菌が散布されるリスク、可能性をゼロにすることは出来ないだろう。 私達はこのような病原性微生物、 常在菌共にうまく接して対処してゆく必要がある。 「毒と薬」 「植物」 「生物進化」 「免疫」 「寄生虫」 「歯」 「ゲノムと生物学」
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