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毒と薬の科学

担当:長官
毒と薬、それはまさに命の天秤である。
序章.定着したイメージ

毒と薬…、 これらの言葉に対して一体どのようなイメージを感じるだろうか。 中には「毒は危険」「薬は安全」というように全く異なった イメージを持たれる方もいらっしゃるだろう。 今回は、そんな毒物学、薬理学の不思議な世界にスポットを当て、紹介してゆく。

一章.毒、薬との出会いと関わり

地球上に人類が現れた時から、 既に毒をもつ魚、昆虫、ヘビ、植物、キノコなど 毒や薬との出会いは始まっていた。 さらにいえば、「進化」する以前の動物である段階から 毒との密接な関係があったのだろう。 そして、歴史を振り返ると毒に関する話が数多く残っている。 例えば、毒はしばしば食事に混入され、暗殺に用いられ、歴史が動かされてきた。 また、秦の始皇帝が除福に「不老不死」の薬を探させたという話なども有名である。 また、クレオパトラがヘビに胸を噛ませて死んだ(諸説ある)、 暴君として知られるネロ帝などのローマ皇帝たちは 実は鉛中毒の影響を受けていたという歴史ミステリーなどもある。 これは、鉛で出来ているジョッキでワインを飲むと甘くなる のを楽しんでいたためと、考えられている。 また、「ナポレオン毒殺説」など歴史と毒にまつわるエピソードは数多く残されている。

二章.毒との新たな関わり

人類は生きるために数々の犠牲を払いながらも毒キノコなどを 見分ける術を親から子へ少しずつ受け継いでいった。 そして、歴史上で大きなきっかけとなった出来事のうちの一つが 「錬金術」だろう。 錬金術は金でないものを金に変えたりすることが目的であり、 これらは夢物語に終わったが、 エタノールの発見など化学の発展に大きな影響を及ぼすことになった。 16世紀、ルネサンスにおいて パラケルススは「毒は薬なり」と書き残しており、 アヘンを治療に用いていた。 ケシの木から得られたアヘンには麻酔効果があり、 アヘンにはモルヒネなどの成分が含まれている。 以来、毒と薬との関係はこれに続いている。

三章.微生物と抗生物質の発見

ペストによる黒死病の大流行など歴史上には 疾病に関する様々な記述がある。 疾病を引き起こす原因には外的な要因と内的な要因があるが、 その中でもウイルスや細菌などによって 引き起こされる風邪や疾病などにについては、 顕微鏡が発明される以前は全く存在が考えられておらず (一部では微生物のような存在に気づいていた記述はみられる)、 神による裁きや、悪魔による仕業など様々な噂に左右されていた。 そして、顕微鏡などの発明などによって次第に微生物の 存在が明らかになり、フレミングによる ペニシリン、ワックスマンによるストレプトマイシンなどの抗生物質 などの薬の発見によって細菌に対抗できる術が人類にもたらされた。 当サイト内関連ページ「微生物とバイオハザード

四章.命の天秤

「毒は薬なり」というパラケルススが記した記録にあるように、 毒の中には薬として応用されているものがたくさんある。 今現在でも、様々な薬を開発するために大手の製薬会社は 深海からジャングルの奥地までチームを派遣している。 例えば、ジャングルの奥地で獲物を麻痺させて捕らえる 毒をもつ新種の動物を発見し、その毒の分子の構造が今までとは 異なっていた場合、その構造を人工的に少し変化させて副作用が 少ない新たな麻酔薬を開発したり、難病を治療する薬などが発見される場合があるからだ。 また、新しい「植物」の発見が新薬開発につながることがある。 先ほどのアヘンからは麻酔効果のあるモルヒネが含まれ、 キニーネ、コカインなどの薬物も植物から発見された成分である。

五章.毒に傾く天秤

ある物質が「毒になるか、薬になるかは作用量の違い」という ことはよくあるが、毒としての利用が大半を占めたり、 毒としてしか用いられていない物質などもある(サリンなど)、 毒といえば、食物に関するものとしては、毒キノコ、毒草、 フグ(毒:テトドロトキシン)、杏・桃・梅・リンゴなどの種子 などがあるが、毒物混入事件で ドラマなどで青酸カリ(メッキ、樹脂、繊維の製造など工業的用途として有用) などが用いられる。仮に、青酸カリによって死亡した場合、 皮膚がピンク色に変色し、シアン化物独特のアーモンドに似た匂いを呈するので 法医学者により死因が特定される(当サイト内関連サイト「法医学の窓口」)、 また、ピクニック中に火山から硫化水素ガスなどが多く発生し、 しばしば事故が起きることがある。 人々は、畏敬の念から「殺生石」という名前を付け、 現在は観光名所となっている地域もある (殺生石:栃木県那須。 九尾伝説を調査している時に車で立ち寄ったことがある)

六章.薬に傾く天秤

毒が薬として利用されてきた薬物は数多く、 また、本来は薬ではなかった物が薬としての作用を持っていることもしばしばある。 例えばダイナマイトの原料であるニトログリセリン(舌下投与)は 改良され、現在も狭心症の治療薬として用いられている。 しかし、毒と薬は切っても切り離せない関係であり、 例えば、量が多すぎたり、薬同士の相互作用、体質などによって重大な副作用が 現れることもある。例えば、需要が高い薬物同士としては 薬局でよく目にする非ステロイド性抗炎症剤(風邪、熱が出た時などに気軽に飲まれる薬) と、血液を凝固しにくくするワルファリンと一緒に飲むと脳出血で 死亡することがある。 また、高血圧の患者に処方されている血圧を下げる薬(Ca拮抗薬)と グレープフルーツジュースとの相互作用で低血圧を引き起こす場合などもある。 特に、高齢者の場合、多数の薬を 飲んでいるので、家族は風邪を引いたからといって気軽にこれらの薬や 鎮痛剤を飲ませてはならない。小児、妊婦・授乳中、高齢者、持病がある場合には、 より注意し、出来る限り家庭の医学ではなく、病院、薬局でよく相談して診てもらったほうが安心である。

最終章.健康と薬

近年、健康ブームなどと共に、 数々のビタミンやコエンザイムQ10などが発売され、注目を浴びている。 それに伴い、漢方や薬などが気軽に飲まれる場合も数多く存在するようになったように感じる。 しかし、コエンザイムQ10にしても本来は、成分的には 薬としての作用があり、取りすぎると様々な副作用が現れる危険性がある。 ビタミンも同様で、ビタミンAは脂溶性で、体内に蓄積するので 毎日必要以上の量を取ると副作用が現れる危険性があり、 催奇性があるために、妊娠中などでは胎児に影響を及ぼす危険性も高い。 また、病院などで処方された薬は出来るならば、 薬の辞典やインターネットなどで副作用や、相互作用なども確認 しておくことが望ましい。 「(健康)食品、薬、毒」、これらは、ある意味では先祖が体験してきた 毒物よりも歴史上で最も多く溢れ、身近な存在となっているのだ…

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